外務委員会質問に立ちました。日米貿易協定、TPP、国連安保理改革
ご無沙汰お許しください。
最近は、来年の統一地方選挙の関係で来訪や問い合わせ等が殺到しており、なかなかまとまった時間を取れない日々が続いていました。
そんな中、先週金曜日(10月28日)久しぶりに外務委員会の質問に立ちました。日米貿易協定の改正という法案(条約改正)審議でしたので、同改正案と、関連する外交課題につき質問しました。以下、その概要をお伝え致します。
まず、「質問要旨かつ質問通告」として下記を提示し、これに基づき関係省庁(外務省と内閣府)向けの質問内容聴取会を開催。官僚はこの通告と確認した質問内容を基に大臣向け「答弁要領」を作成し、大臣との答弁勉強会を開催し、委員会に臨みます。
<テーマ:日米貿易協定改定の意義、および、日本外交の進むべき道について>
1.日米貿易協定改定の意義をTPP11との関連において問う
2.TPP11の今後の展開と戦略
3.TPP11に英国が加盟する場合の意義
4.価値観外交の目的と是非
5.日本外交は何を目指しているのか(問題意識:あらゆる国、地域との友好関係を築くことはもちろんながら、外交も対外的政治である以上、優先順位付けした上での選択と集中が必要ではないか)
上記通告に基づき質問した内容の概略は以下の通りです。
1.日米貿易協定はトランプ前大統領のTPP離脱に伴う応急措置であり、米国のTPP復帰が本筋
日米貿易協定の牛肉輸入に関わるセーフガード規定(条件)の改訂内容について審議することが目的。元々、トランプ前大統領の時代錯誤の認識(40年前、50年前の貿易感覚しか持たず、グローバル企業が世界中に構築しているサプライチェーンや投融資環境の変化に対する無知)によりTPPを離脱したことを受け、それでも我が国の国益を守るために交渉、妥結したのが日米貿易協定であり、これは応急処置。本筋である米国のTPP復帰に全力を尽くしてもらいたい。
2.TPPは単なる経済連携協定ではなく、地政学的、戦略的意義を持つ
TPPは(世界地図を頭に描いてもらうとよくわかるが)、中国が中心の上海協力機構がユーラシア大陸の大半を支配したモンゴル帝国の80%くらいを占める「陸の帝国(Land Power)」であるのに対して、自由を重んじる海洋国家による「海の帝国(Sea Power)」連合であり、地政学的、戦略的にも極めて重要。これは、第一次世界大戦前の三国同盟(独、墺、伊)に対抗した三国協商(英、仏、露)のようなもので、軍事同盟ではないが戦略的、地政学的意義を持つ。
3.TPP11の今後の展開は、米国復帰以外では英国の加盟が重要
現在、英国、韓国、タイ、中国、台湾などがTPP11への加盟を検討しているが、中でも英国の加盟が重要。林芳正外相は、本国会外務委員会冒頭の所信において、「国連の安保理改革に熱心に取り組むことを表明しているが、そのためには常任理事国(P5)の承認と総会での多数票の獲得が必要。米、英、仏、露、中のP5は米英仏でさえ、表面的には支援するようなことを言っていても、特権を手放そうとするはずはなく、本気での支援は期待薄。それゆえ、BREXITやウクライナ戦争により経済的に大きな打撃を受けている英国をTPP11に迎え入れる際に(恩を売って)英国の本気の支援を取り付けるべき。
英国は大英帝国以来の「コモンウェルス(英連邦)56か国」と強い関係をもっており、安保理改革時の総会での多数を得ようとする際、英連邦諸国の支援も期待できる。
4.価値観外交は日本の目指すべき外交とは矛盾する
民主主義、法の支配、基本的人権を普遍的価値として価値観外交を展開しているが、自分は基本的人権を除き「普遍的価値」だとは思っていない。今、正しいと思うことは2022年10月28日の東京から物事をみてのこと。この空間軸を砂漠地帯や熱帯雨林地帯、ツンドラ地帯に移したり、時間軸を2050年や2100年、また100年前に移せば、違った正義がある。自分はニューヨークに5年半駐在していたが、そこからの出張先はほとんど発展途上国であり、中南米には100回以上出張している。ブラジル留学時代にはバスで280時間、距離は地球の半周分に当たる2万キロ旅した。亜熱帯からステップ気候、そして熱帯雨林気候へと気候が移り変わっていくのをバスの中で見てきた。人々の生活や社会のあり様は、気候条件で決まる。アブラハム・マズローの人間の欲求5段階説は人間だけでなく国にも当てはまる。価値観外交を打ち出しているのは5段階の最上層にある、発展段階をとっくに終えた「自己実現」を目指すセレブの国々であり、多くの途上国は5段階の下層レベルで悪戦苦闘している。国連安保理改革の際に多数の支援が必要なら、価値観外交を前面に打ち出すのは途上国の離反を招くだけでマイナス効果。内内に「普遍的価値?」が大事だと思っていればいいことで、敢えて日本外交として掲げるべきではない。
5.先進国と途上国の橋渡し役となり、途上国に寄り添い、その自発的発展に協力することこそ日本の進むべき道
(委員会質問時には敢えて発言していませんが、自分の本音としては国連改革、安保理改革はほぼ不可能であり、貴重な外交資源をそこに傾注すべきではないと考えていますが、政府として安保理改革に本気で取り組むなら、何が必要かという観点で質問をしましたことはご了解戴いた上で)安保理改革を目指すなら、途上国の離反を招きかねない価値観外交を掲げることはやめ、これまでのODAの成功体験でもある、途上国の自発的発展と人材育成に協力しながら、途上国と先進国の橋渡し役、繋ぎ役こそが日本の進むべき道であると思う。
6.林芳正外相の答弁
世界中の外交関係者が大使館などを通して日本の外務委員会を拝聴していることから、外務大臣の見解は杓子定規な答弁にならざるをえないことは百も承知しています。その上で、私の質問に対する林芳正外相の答弁は、TPPの経済連携協定としての質の高さをその意義として説明していましたが、地政学的、戦略的意義や英国のTPP11加盟の意義についても概ね理解を示してくれました。価値観外交の否定については戸惑った様子ではありましたが、空間軸や時間軸を移せば、また、気候条件によって正義が変わることについては、表情からも「確かにその通りなんだけどなあ」ということが伺えました。
以上、外務委員会質問の報告まで。
吉良州司