吉良からのメッセージ

2023年1月4日

2023年の日本が直面する課題中、防衛費増額問題について

あけましておめでとうございます。
吉良州司です。
ご家族そろっていい年を迎えられたと思います。

2023年は内外ともに課題山積で、特に我が国が直面する課題(少子化、防衛費増額、電力逼迫等エネルギー安全保障、物価高、金融政策の修正(これは事実上のアベノミクスの見直し)等等)に対しては、今年2023年に如何に対応するかが日本の大きな節目になると思っています。
本メッセージでは、それら課題中、「防衛費増額問題」について、詳細にまでは立ち入らず、雑駁なものになってしまうことをお許し戴きたいのですが、私の思うところをお伝えしたいと思います。

1. 「日本を取り巻く厳しい安全保障環境」の新要素

まず、よくいわれる「日本を取り巻く厳しい安全保障環境」については、従来から懸念されてきた中国の防衛力の増強・近代化及び力による現状変更の意図・試み、北朝鮮の度重なるミサイル発射と核開発に加え、ロシアがいつ牙をむいてくるかわからなくなった、というウクライナ侵攻後の現実味を帯びたと感じられる脅威が出てきました。

2. 「動かない米国」のリスク

また、ウクライナ戦争を目の当たりにした米国の同盟国は、「動かない米国」を見てしまいました。ウクライナはNATO加盟国ではないので、米国の防衛義務がないことはみなわかっています。しかし、NATO諸国や日本、韓国など米国の同盟国は、「第三次世界戦争の回避」、「核戦争の回避」という「美しい名目」「もっともな名目」によって、しかし、本音では米国がロシアなど核兵器保有国との直接戦争に巻き込まれることを回避するため、たとえ同盟上の防衛義務があっても、米国が動かない可能性があるのではないのかと疑心暗鬼を持つようになったのではないかと思います。
日本は口が裂けてもそのような本音を口外するわけにはいきませんが、それでも腹の中ではそのような究極のリスクを前提に日本の自主防衛力の充実を図ろうとしているからこそ、政府は今、「防衛費の大幅増額」と「反撃能力を含む防衛力の増強」を打ち出しているのだと思います。私自身もそのような米国リスクを前提にした防衛力の充実は重要だと思っています。というより私は以前から自主防衛力充実の必要性を訴え続けてきました。米国はトランプ大統領時に「米国第一」「NATO加盟国の対GDP比2%の防衛費負担」を平然と掲げましたが、自国の国益に反してまで、自国を犠牲にしてまで同盟義務を果たす国だとは思えないからです。それは民主主義の国だからです。同盟関係見直し、同盟破棄を公約に掲げる大統領が誕生すれば、そのようになるからです。

3. 防衛費増額の財源 姑息な国債頼り

上記のような究極の米国リスクがあること、日本を取り巻く安全保障環境がより一層厳しさを増していることは理解します。しかし、そうかと言って、日本の防衛費をGDPの2%にするだとか、5年間で43兆円増額するだとか、先に金額ありきの議論や決定はあまりに拙速だと思います。
何よりも、財源につき将来世代の負担となる国債発行は、それが「建設国債」への質的変更であっても避けるべきだと思います。国民の理解を得て防衛力の増強を図りたいなら堂々と消費税、所得税、法人税の増税負担を国民にお願いすべきです。選挙が怖くてそれができないなら、防衛費増額などを掲げるべきではありません。

4. ロシアの日本侵攻はありうるのか

冒頭で、ロシアがいつ牙をむいてくるかわからない新たなリスクが安全保障環境に加わったと記しました。しかし、短期的中期的にロシアの日本侵攻がありうるかといえば、私はないと思っています。
ロシアのウクライナ侵攻、その前のジョージア侵攻は、元々旧ソ連時代には同じ国の仲間であった連邦内共和国がNATOに加盟してロシアを仮想敵国とし、ミサイルをモスクワやサンクトペテルブルクに向けるような事態を断固阻止しようとしたものであり、旧ソ連に属していなかった主権国家に侵攻することなど、私はありえないと思っています。ましてや国力上、GDPが韓国よりも小さなロシアにできるわけがありません。
その意味では旧ソ連でNATOに加盟したバルト3国は大きなリスクを抱えていると思います。また、今はNATO加盟国であっても旧ワルシャワ条約機構の国々(東欧諸国)も戦々恐々としていると思います。しかし、今回のウクライナ戦争はロシアの核の脅威を除く軍事力とそれを支える国力に限界があることを露呈させました。昨年の前半、私はウクライナ侵攻についての論考を12回シリーズでお届けし、具体的な停戦案を示しながら、妥協をしてでも停戦すべきであると、侵攻の初期段階から訴え続けていましたが、その考えに今も変わりはありません。
ロシアの日本侵攻は短中期的にはありえないという冷静な判断、またそのような侵攻をさせないという外交を展開すべきだと思います。その意味ではウクライナ侵攻後の対ロシア外交は、サハリン1,サハリン2の権益を残したことは評価していますが、それを除けば、したたかさが足りない拙速な対応だと思います(各論は別の機会に譲ります)。

5. 中国の日本侵攻はありうるのか

中国が急ピッチで軍事力を増強し続けていること、また、その軍事力を背景に南シナ海など傍若無人の行動を取り続けていることは大問題であり、米国や準同盟国(豪州)などと歩調を合わせて抑止することは重要です。
しかし、台湾問題の解決前に中国が日本に侵攻してくるかといえばそれはないと思います。確かに台湾有事は日本の有事であるとの認識の下、台湾有事から派生するあらゆるリスクに対応する備えは必要です。
しかし、中国の至上命題は共産党一党独裁体制の維持であり、そのための経済成長であり、台湾統一です。全国的に社会保障制度が行き届く前の2030年代に人口減少に転じ、その前に経済成長が鈍化して共産党支配への信頼が揺らぎはじめる(既にコロナ政策の失敗で揺らいでいますが)であろう中国の中長期の国力・国情を考えると、中長期的に日本本土への侵攻はありえないとの冷静な分析と、それを前提にした対処が必要です。中国の軍事力増強と力による現状変更圧力を理由として、中国に対抗するだけの軍事力を日本が備えようとするのは筋が違うと思います。

6. 将来世代への投資こそ圧倒的な優先順位No.1

上述の説明はあまりに雑駁であり、専門家を含むプロの議論には耐えられないことは承知していますが、仮に専門的見地からの議論が積み重ねられようとも、我が国の現状、国力(経済力、潜在成長率、莫大な公的債務残高)、何よりも急速に進む少子化を考えると、5年間で43兆円、今後毎年毎年GDPの1%(現在のGDP規模で5兆円強)もの貴重なお金を新たに防衛費につぎ込むことは政治の要諦である優先順位付けからしてとても妥当とは思えません。毎年毎年新たに5兆円を追加投資するならば、もっと優先順位の高い投資先があります。
昨年の予算委員会において、私が代表を務める「有志の会」の北神圭朗衆議院議員が「自衛隊の敵は北朝鮮でもなく、中国でもなく少子化です」と自衛隊幹部から聞いた話を披露しています。この先限られた若者を企業、役所、自衛隊、警察、消防などで取り合う時代に、どれだけの若者に自衛隊入隊してもらえるのか、それを考えると、私の持論である「日本の最大最良の経済政策は大胆な子育て支援策である」と同じく、我が国の最大の防衛力強化策は子どもたちへの教育投資であり、子育て世代・家計への支援策である、と訴えたいと思います。もちろん、子どもたちへの教育投資や子育て支援は、子どもたち一人ひとりに豊かな人生を送ってもらうことが第一義であり、経済への貢献や防衛への貢献は副次的なものですが、我が国が最優先すべき政策課題であることは論を待ちません。

以上のことを今月23日から始まる通常国会においても声を大にして訴えていきたいと思っています。

最後に、この1年がみなさんにとって幸多き素晴らしい年になりますことを祈念いたします。

吉良州司