電力逼迫問題 その3 資源開発時の買手としての大手電力会社の重要性
間があいてしましましたが、本メルマガはエネルギー安全保障の一環としての電力逼迫問題のシリーズ第3弾です。前々回のメルマガの最後の段で「調整電源として必要不可欠な火力発電の原料となる液化天然ガスなどの資源開発において、その資源の長期安定的引取り手(買手)として(経営が安定した大手電力会社が)絶対的に必要だ」とお伝えしました。
今回は、何故その買手として絶対的に必要なのかという点に絞って持論をお伝え致します。
この持論に基づいて、一昨日の予算委員会分科会の場で、電力のシステム改革は間違いであり、安定経営が担保された垂直一貫体制の大手電力会社が必要であるとの主張を西村経済産業大臣に直接ぶつけたところでした。
(衆議院インターネット審議中継)
1.FIFAワールドカップがカタールで開催できたのは中部電力と丸紅のお陰
まず、昨年FIFAワールドカップがカタールで開催できたのは中部電力と総合商社丸紅のお陰だということをご存じでしょうか。
ペルシャ湾沖の世界最大の「ノースフィールド・ガス田」が1971年に発見されたことにより、天然真珠以外の産業がなく貧しい国だったカタールが、いまや一人当たりGDPが8.2万ドルを超える(2022年IMF推計。世界第8位)豊かな国へと生まれ変わります(因みに日本は2021年3.9万ドルで世界第27位)。今でこそ天然ガス、LNGといえば世界争奪戦が繰り広げられるほど貴重な天然資源ですが、その当時はまだ石油全盛の時代です。
しかし、資源小国日本の将来、日本のエネルギー安全保障を見据えて中部電力がその買手となるLNGの開発輸入プロジェクトを始動させるのです。1988年に開発着手、1997年からLNG長期契約に基づく年400万トンの輸入が始まります。
このLNG開発プロジェクトを皮切りにカタールは世界屈指の天然ガス生産国として豊かさへの階段を駆け上っていくのです。中部電力、丸紅が豊かな国カタール、FIFAワールドカップを開催できる国にした立役者なのです。
1988年に開発着手ですから計画はそれよりもはるか前から練られていたはずです。感動を覚えるのは私が大学4年の就職活動時期(1979年)に丸紅燃料部で活躍されていた山岳部の先輩にお会いした際、既にカタールのLNG開発プロジェクトの話をしていたことです。先輩はその後カタール駐在、名古屋支店勤務(中部電力のお膝元だから)をされているので商社マン人生の大半をカタールLNG開発輸入プロジェクトに奉げたのだと思います。
苦労して締結した25年間の長期契約に基づき中部電力の火力発電原料として供給され続けてきたLNGですが、化石燃料罪悪説の中、将来需要が減退すると見越したことも大きな要因で2021年にこの長期契約更新をしない判断を下します。この長期契約が打ち切られた結果、昨今のLNGの需給逼迫、ひいては電力の需給逼迫を引き起こしているのは残念でなりません。
2.資源開発プロジェクトは長期の安定的買手がいてはじめて成り立つ
脱炭素社会を目指しながらも、カーボンニュートラル達成までの移行期間ではミドル電源、ピーク電源としての天然ガス焚き火力発電が必要であることはすでにお伝えしていますが、その天然ガスの開発輸入プロジェクトの成功の鍵を握っているのが、LNGを長期に安定的に引き取るオフテイカー(買手。LNGの場合、多くが電力会社とガス会社)であり、資源開発プロジェクトの最も重要な役割を担っています。
私は、商社勤務22年間中、ニューヨーク勤務時代も含めると長いこと電力のIPP(独立系電気事業者)プロジェクトに携わってきました。IPPプロジェクトと資源開発プロジェクトに共通していることは、プロジェクトを成功させる最も難しい要素がファイナンス組成であるという点です。何故なら、プロジェクトの投資者に(借入金に対する)返済保証を求めず、プロジェクトが生み出すキャッシュフローのみを返済原資とする特殊なファイナンス形態だからです。セキュリテイパッケージと言いますが、融資者は、貸したお金を絶対取りっぱぐれないように、これでもか、これでもか、と極めて強い縛り(条件)を課してくるのです。
その縛りは、建設段階では総合請負会社は誰なのか、稼働段階ではプラントの運営責任者は誰か、生産物(LNG)の買手は誰か、厳しく審査し、信用できる会社だけのプロジェクトでない限りお金を貸しません。
プロジェクト推進者からすると、LNGは生産したものの、長期安定的に引き取ってくれる会社がなく、常にスポットで売るビジネスとなると経営が安定しないため、借りたお金を返済できなくなるリスクがあります。それゆえ、必ず生産物(LNG)引取の長期契約を求めます。
求められる長期契約の肝は例えば25年間、オフテイカー(買手)が、決して潰れることなく、必ず長期契約上の引取り義務を果たし、その代金を支払い続けられるかどうかです。この買手としての義務を果たし続けることができる長期に亘って安定した経営の会社が求められるのです。
3.国益の観点から信用力の高い大手電力会社の存在が必要
電力システム改革の根底には、競争原理導入により甘い汁を吸ってきた大手電力会社の独占的地位をばらばらに解体し、新しいビジネスチャンスを新電力に拓き、最終顧客にも電力供給者の選択肢を増やすという目的があるわけです。
しかし、長期に亘って経営の安定しない(実際、原料価格の高騰により逃げ出した新電力が数多くあります)新電力だらけになると、上記理由により日本が輸入する資源開発ができなくなり、それは世界的供給力の低下を招き、世界、日本の需給逼迫、原料価格の高騰へと繋がっていき、結局日本経済の首を絞めることになるのです。
それゆえ、殿様商売と揶揄されていた嘗ての大手電力会社の特権的体質は改善する必要はありますが、日本の国益という観点からは、長期に資源を買い続けることができる信用力の高い電力会社を維持するということが必須なのです。
吉良州司