既存の正義や世界秩序が崩壊しつつある様を見て今思うこと、トランプ関税対応で重要なこと
無茶苦茶暑い日々の後は豪雨という過酷な天候が続いておりますが、みなさん、元気にお過ごしでしょうか?
ここしばらく、日本内外のあまりにも多くの環境変化に直面する中で、表面的な出来事に対する表面的な対処を考えるのではなく、環境変化の背後にある物事の根本・本質の変容の原因はどこにあるのか、それに対処するにはどうすればいいのか、などなどあれやこれや考えていました。今まだ充分に頭を整理できているわけではありませんが、今考えていることのほんの一端をお伝えしたいと思います。
今を生きる私たちは、これまで当たり前と思ってきた正義や世界の既存秩序が音を立てて崩れていく様を目の当たりにしています。ウクライナ戦争、ガザ・イスラエル戦争(イスラエルによるガザ地区パレスチナ人の一方的な殲滅戦争)、そして何よりも世界の政治・経済・技術において圧倒的な優位性を持つ米国のおぞましいばかりの醜い変貌、その米国に翻弄されながらも尚米国にすがり続ける世界各国の痛ましい姿がそれらを象徴しています。
既存秩序崩壊の最大の原因の第一は国内的・国際的分業を前提としてとことん効率を追求してきた現代資本主義が限界を迎えつつあるからだと思います。低所得層の憤懣はもちろんのこと、これまで豊かさを享受しながら資本主義を支えてきた中間層までもが、頑張っても報われず、一部の富裕層に富が集中していく中で、自分たちが下層へと転落しつつあることを実感しながら、溜まりに溜まった不安・不満が一驚に噴き出していることが背景にあると思います。そして、その不安や不満が選挙時の投票行動に直結する結果、外国人など誰かを敵対視する分断志向の政党や、財源負担を無視して安易なばら撒きを訴えるポピュリズム政党を躍進させてしまうという民主主義の機能不全をもたらしていることが第二の原因だと思います。
これらの傾向は米国ではトランプ大統領を誕生させ、欧州では近年、極右政党を台頭・大躍進させ、先の参議院選挙において我が国にも極右政党やポピュリズム政党を大躍進させる結果をもたらしました。
私は、日本社会が社会主義への強い憧れを抱いていた当時(1970年頃まではそうだったと言えると思います。しかし、私が中学3年時(1972年)の連合赤軍あさま山荘事件でその傾向は弱まったと感じています)、政治思想的にはおませであった私は、共産主義、社会主義で平等を追求するあまり、自由が奪われることへの強い抵抗感から、というよりも、何の制約も受けないとことん自由な生き方がしたと思っていましたので、自由主義、自由主義経済、市場原理経済が社会是、国是だと思って生きてきました。必然的に衆議院議員になってからもそのような思いを持ちながら議員活動を続けてきました。しかし、今、自由主義、市場原理経済、というより本来の意味である「資本」を社会経済活動の中心に置く「資本主義経済」の限界を感じるようになってきています。
少し、抽象的な文章、表現になっていますので、少し足下の課題である「トランプ関税」にどのように対処するか、という点を例にしながら説明を試みます。
「5500億ドル(約80兆円)を米国に投資することにより関税率を自動車、自動車関連部品も含めて15%にしてもらう」というディール(取引)は本当に日本の国益に資するのでしょうか。私にはそうは思えません。それは何故なのか。
次の文章は2024年2月26日の予算委員会において私が岸田総理(当時)に質した質問の一部です。この中で、日本企業が世界中で稼ぎ出す利益であるGNI(国民総所得)と日本国内で積み上げた付加価値の総和であるGDP(国内総生産)の差が大きくなってきており(その差は海外から受け取る配当金や金利収益の総和である第一次所得収支の総額とほぼ一致する)、GNIが伸びても、国民の生活の豊かさに直結していない、と指摘しています。
『企業収益が拡大したことについて、資料2「GNIとGDPと第一次所得収支」 を御覧ください。このグラフは、日本国内で生み出した付加価値の総額であるGDPと、日本人、日本企業が世界のあらゆる場所で稼ぎ出した所得であるGNIの推移を表したグラフです。GNIとGDPの差は、海外からの配当や金利収益である第一次所得収支とほぼ一致しています。日本は今や投資立国で、この配当や金利収益は、2022年で34兆円もあり、円安により今や貿易赤字国になってしまった日本の経常収支黒字化に大きく貢献しています。
企業収益は、海外投融資をしている企業を中心に拡大していることは確かです。その背景には、海外で稼ぎ出したドル建ての配当・金利収益が、円安により、連結決算上、円に換算すると大きく膨らんでいるからです。
岸田総理が言われた企業収益の拡大自体は間違っていません。しかし、私の問題意識は、生活者優先という視点から、この企業収益拡大の恩恵が広く国民に分配されないこと、また、円安により輸入物価高騰に苦しむ一般国民から企業への所得移転の要素をはらんでいることです。
企業は、生き残りを懸け、また利益を最大化するために、世界のどこでも事業展開します。企業として当然のことです。しかし、政府としては、あくまで国民生活を豊かにすることが目的です。企業収益が拡大したとしても、それが所得移転という形で国民生活の犠牲の上の収益拡大であっては本末転倒です』
現在の日本の大手企業は対外投資により大きく利益を伸ばしており、それは株価上昇にも貢献していますが、その利益がトリクルダウン(滴り落ちる)して広く国民の生活向上には貢献していないことが問題なのです。
それにも拘わらず、政府は「企業の利益が国民生活を豊かにするという、ふた昔前の認識や価値観で、政策を遂行している、遂行しようとしていることが問題なのです。海外からの投資収益は必ずしも国民生活を向上させないにもかかわらず、その企業利益を優先するあまり、円安誘導金融政策を採用し、結果として輸入物価を大きく高騰させ、国民生活を犠牲にしていることが問題なのです。
今回のトランプ関税対応はこれまでの間違ったトリクルダウン思想を鵜吞みにして、国民生活を二の次、否、犠牲にしながら、企業利益を守ろうとしているようにしか見えません。
国民生活を豊かにするためには、私が常日頃から訴え続けている「自民党政権による業界優先政治」を「生活者優先政治」に大転換するしかないのです。
もちろん、日本を本拠とする企業の繁栄も重要なことです。国力の重要な要素だと思うからです。しかし、私は、大手企業、特に輸出企業に対しては、国が手取り足取り支援する必要は全くないと思っています。
以下の文章も2024年2月26日の予算委員会における岸田総理(当時)に質した内容です。
『私の主張は、円安や円安により収益を拡大する輸出企業を目の敵にしていると受け取られかねませんが、そうではありません。私は、22年間勤めた商社時代、プラント輸出、そして海外投融資ビジネスの最前線にいました。それゆえ、我が国が生きていくための外貨を獲得してくれる輸出企業がどれだけ重要か身をもって体験してきました。輸出産業あっての日本だと言っても過言ではありません。
しかし、大手輸出企業は優秀な社員、優れた経営者だらけです。それゆえ、円高に直面しても、現地生産や世界中にサプライチェーンを構築するなどして円高に耐える力、反転攻勢する力を備えています。政府の支援なんかなくても、自力で堂々と世界と渡り合える企業です。
それゆえ、政府としては、JBIC(国際協力銀行)メニューの充実、自由貿易協定、経済連携協定、TPPなど多国間経済連携など、日本企業が不利な状況に置かれないよう、また優位性を保てるようなインフラを整備すれば十分事足ります。
私は、輸出企業の力を信じているからこそ、政府がやるべきことは円安誘導など輸出企業支援ではなく、一般国民の生活向上政策に集中すべきだと申し上げています。』
秋の臨時国会が開会するとすれば、トランプ関税対応は企業の利益ではなく、国民生活を豊かにするものでなければならないことを自身の体験も踏まえ、身体を張って主張したいと思います。
吉良州司
本文中の「2024年2月26日予算委員会質問内容」及び「GNIとGDPの図表解説」はこちら〈アベノミクスから決別し、生活者主権政治に舵を切れ〉よりご参照ください。