吉良からのメッセージ

2022年3月30日

ウクライナ問題を考える その11 ウクライナ戦争後の世界 ~新次元の東西冷戦を回避する知恵 その1

1.対ロシア経済制裁に拍手喝采することへの疑問 ~経済制裁で苦しむのは誰か~

世界各国の対ロシア経済制裁のレベルが毎週のように引き上げられています。
ウクライナ問題を考えるシリーズその3において、「経済制裁で苦しむのは誰か」と題して、何の罪もない一般のロシア人、特に投獄されるリスクがありながら勇気を出して戦争反対を叫んでいるロシア人をも、その生活を困窮させることに、ほとんどの人が疑問を持たず、経済制裁の強化に拍手喝采を送り続ける姿勢に疑問を投げかけました。

2.ウクライナ戦争から思い出す太平洋戦争末期の日本の状況

世界中が対ロシア経済制裁の強化を熱望する中で、何故、経済制裁に疑問を投げかけるのか。まず、今回のウクライナ戦争を目の当たりにして私は、第二次世界大戦末期の日本と連合国のことを思い起こします。今のロシアがかつての日本、NATOが嘗ての連合国に重なるのです。当時も、日本が(国家として)自分で蒔いた種ではありますが、日本のごく普通の家庭は何の罪もないのに、大事な息子、大事な夫、大事なお父さん、兄さん、弟を徴兵されて戦地に送られ、日々の生活は困窮し、自分の家は焼かれ、住む町は焼け野原にされてしまいました。挙句の果てには、侵略国家日本を降伏させるためには、たとえ人道に悖ろうが、民間人相手の無差別空爆も、核の使用も許される、と判断され、東京を筆頭に日本各地の都市が空爆され、広島、長崎に原爆を投下されてしまいました。

3.戦争指導者を憎んで、罪のない軍民を憎まず

プーチン大統領は憎んでも憎み切れませんが、当時の日本を重ね合わせると、プーチン憎しの経済制裁を強化することにより、何の罪もない一般のロシア人を苦難に陥れる対応は忍びなく、納得がいかないのです。また、ロシア兵の中には、本来戦地に送ることが禁じられている徴集兵もいるようで、彼らも何の罪もない一般のロシア人です。何も知らされずに、軍事演習に参加していたら、自分が知らない内に徴集兵から契約兵(契約軍人)になっていて、気が付いたらウクライナの戦線に送られていて、「ママ、怖いよ」と母親にメールを送る何の罪もないロシアの若者が数多く「戦死」しているのです。
日本人も世界の多くの人々も、ウクライナ兵、ウクライナ人の死傷については胸を痛めますが、プーチンの手先になってウクライナを侵略するロシア軍、ロシア兵、ロシア人の痛みなど知ったことではない、とことんやっつけろ、という機運になってしまっています。
70数年前の日本を思い出してください。罪のないウクライナ人の犠牲者をこれ以上だしてはいけない、ウクライナ国土や街の破壊をこれ以上許してはならないと思うと同時に、これ以上罪のないロシア人の犠牲者を出すことも、ロシア人の生活をこれ以上困窮させることも回避しなければならないとも思うのです。それゆえ、一刻も早い停戦の必要性を訴え続けています。

この思いを端的に示す歴史的事実として、シリーズ4において1945年当時の蒋介石の「以徳報恨」演説を引用し、戦争指導者は許せないが、罪のない一般の人々も同じ(戦争指導者の)犠牲者なのだから、危害を加えることなく許し、祖国に帰してやろう、という恩義ある対応を紹介したのです。
「以徳報恨」演説はこちら

4.停戦交渉再開に思う ~NATO非加盟はロシア侵攻前に決断すべきだった~

今回のNATO諸国をはじめとする西側の対応は、いろいろな意味において将来に禍根を残す対応になっています。
ロシア侵攻前に、ロシアがレッドカードとして示していたウクライナのNATO加盟を思い止まっていれば(思い止まらせていれば)、現在進行中のウクライナの悲劇は生じなかった可能性が高いことは、これまでくどいほどお伝えしてきました。

そして、今日3月29日(執筆時点)、トルコにおいて停戦交渉が再開されますが、ゼレンスキー大統領は、NATOへ加盟せず中立国となるつもりだが、中立国となるウクライナの安全を保障する枠組みを求める、と主張しています。
この落としどころは、当然予見できたことであり、私は、「ウクライナ問題を考えるシリーズ」「その4」と「その8」において、NATO加盟に代わるウクライナの安全保障策を含む具体的な停戦合意案を示しています。
ウクライナ問題を考えるシリーズその4><ウクライナ問題を考えるシリーズその8

ロシア侵攻前に決断できたはずの「NATOには加盟しない」ことが今回の停戦交渉の主たる内容になっていることは残念でなりません。この間、どれだけの犠牲者を出し、国土や街々が破壊され、多くの国民が国内外へと難民化してしまっことか。ゼレンスキー大統領は、国民の生命、財産を守る責任を果たせなかったのです。しかし、同大統領の判断の誤りを誰も追及しません。

悪役をやっつける勧善懲悪劇に熱狂するのではなく、一人でも多くの命を救うこと、そして、将来に禍根を残さない落としどころに落とすことを国際社会は追求しなければなりません。相互に妥協して停戦に持ち込めなければ、犠牲者を増やし続けることを意味します。加えて、将来的に国際社会に決定的な亀裂を生じさせる新たな東西冷戦、新次元の東西冷戦を招く可能性が高まることも意味します。

5.新次元の東西冷戦 その1 ~ウクライナ戦争後のロシア包囲網の行方~

新次元の東西冷戦という言葉は次のような問題意識を持って使っています。

1991年のソ連崩壊により幕を閉じた嘗ての東西冷戦の東側は、共産主義、社会主義という世界的影響力を持つイデオロギーの力とソ連の軍事力だけで西側に対抗していましたが、経済的には西側の足元にも及ばないほど脆弱な経済力でした。
しかし、ウクライナ戦争後に待ち受ける新しい東西冷戦の東側は、ロシアの軍事力と中国の経済力・軍事力がスクラムを組む強力な反米同盟となります。これにイランが加わる可能性が高いと思っています。また、誰がその国のリーダーになるかにもよりますが、ブラジルのボルソナロ大統領のようなリーダーの場合には、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)としての仲間意識で結束し、南アフリカやブラジルもこの反米色の強い同盟に加わるか、少なくとも西側が主導する反ロシア包囲網には加わらない可能性があると見ています。嘗ての冷戦時の東側とは特に経済力において次元が違うのです。

6.新次元の東西冷戦 その2 ~イランの今後の動向~

イランについては、中ロ側反米の急先鋒を続けて、ロシア、中国との関係強化に向かうのか、それとも、ウクライナ戦争の出現により、米国がイラン対応どころではなくなったことを利用して、イランが納得する核合意を復活させ、対イラン経済制裁を解かせるのか(この場合は急進的な反米路線を当面は封印し、経済制裁を解除させて国内経済の立て直しを優先する。ロシア産の原油供給が減少する中、世界の原油需給を安定させるために、イラン産原油を世界市場に復帰させることは国際経済が望むところであり、イランも当然歓迎する)、判断に迷うかもしれません。歴史上の大国で、幾多の試練を乗り越えてきたイランのような国は、いい意味でしたたかですから、どちらの可能性もあると思います。しかし、国際社会としては、どちらの場合にも備えなければなりません。

7.新次元の東西冷戦 その3 ~人口経済大国化するBRICSの動向~

BRICSは新興国且つ人口大国の集まりです。2050年の各国の経済規模(GDP)を2014年にプライス・ウォーターハウス・クーパースが予測していますが、中国、インド、ブラジルといった人口大国が経済大国として上位を占めています。

<2050年の各国経済規模予測>

因みに2050年のGDP上位10か国は、1位中国、2位米国、3位インド、4位ブラジル、5位日本、6位ロシア、7位メキシコ、8位インドネシア、9位ドイツ、10位フランスとなっており、BRICS中4か国(中国、インド、ブラジル、ロシア)がベスト10入りしています。
もっとも、ウクライナへのロシア軍事侵攻後のロシア経済の復活は相当厳しいと思われ、世界銀行の予想通りにはならないと思います。
しかし、ロシア、中国と関係の深いBRICS諸国が反ロシア網に加わらず、場合によっては反西側の動きをする可能性もあることは踏まえておく必要があると思います。

8.新次元の東西冷戦 その4 ~国連のロシア非難決議の各国対応が意味すること~

2022年3月3日の国連のロシア非難決議に対して、BRICS中、ブラジルは賛成しましたが、ロシアは反対、中国、インド、南アフリカは棄権しています。インドをはじめ、パキスタン、バングラデシュ、スリランカの南アジア諸国の全ての国が棄権したことは驚きでした。また、イラン、イラク、ベトナム、および、旧ソ連のアルメニア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンは棄権、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、ウズベキスタンは賛成も反対も棄権もしない「意思表示なし」の対応をしています。上記以外でロシアと直接国境を接するベラルーシは反対、モンゴルは棄権しています。大国ロシアとの決定的な対立を回避する、生き抜くための苦渋の決断が読み取れます。
同時に、西側先進国に対する、特にトランプ大統領を誕生させた米国に対する信頼感のなさを象徴する国連決議における各国の対応だと思います。

9.新次元の東西冷戦 その5 ~ロシアと中国を相手の2正面包囲網の行方~

1971年の米国キッシンジャー大統領補佐官の劇的な中国訪問は、当時、ソ連と中国の二正面包囲網を維持し続けることは、相対的に国力を低下させつつあった米国の限界を超えてしまい、中国とは手打ちし、対ソ連封じ込めに集中するためでした。上述のごとく、当時はイデオロギーの力や軍事力は持ち合わせていても経済は脆弱極まりなかったソ連、中国でしたが、今の中国は当時とは次元の違う経済大国となっており、その経済力にものを言わせて、軍事力の増強、近代化を推し進めていることはご承知の通りです。

ロシア、中国を主軸とし、人口経済大国化しつつあるBRICSや中東の大国イランがスクラムを組んで、反米、反西側志向を強める新しい東側世界は嘗てとは次元の違う強力な枠組みとなります。そうなった場合には、世界が分断され、経済的にも大きく分断される可能性があります。経済が脆弱だった時代の中国とソ連の二正面包囲網すら限界と感じた米国が、経済大国、軍事大国となった中国と軍事大国ロシアの二正面包囲網など維持できるはずがありません。

10.新次元の東西冷戦を回避する方策

現在進行中の世界の分断が深まってしまうことを回避し、次元の違う新東西冷戦に陥らないようにしなければなりません。
そのためにはまず、「プーチンを憎んで、罪のないロシア人を憎まず」の対応、ロシアを国際社会から締め出さない対応が必要だと思います。プーチンの後は、プーチンやプーチン的なリーダーとは限らず、21世紀のゴルバチョフが誕生する可能性もありますから。

新次元の東西冷戦を回避するための具体案は次回にお伝えします。

吉良州司

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