電力逼迫問題 その4 核融合発電への期待
エネルギー安全保障・電力逼迫問題のシリーズ第4弾です。2023年2月2日付メルマガ「エネルギー安全保障 電力逼迫問題 一度立ち立止まって考える」において、私の基本的な考え方を既に簡潔にまとめてお伝えしています。
<エネルギー安全保障 電力逼迫問題 一度立ち立止まって考える。はこちらから>
その最後の章において次のように持論を展開しています(以下は要約)。
「目指す到達点(地域内スマートグリッドを全国に普及させる新時代の電力システムを構築し、化石燃料、火力発電に頼らないエネルギー社会の実現)までのベースロード電源は、化石燃料を使わず、世界情勢に左右されない自前電源である原子力が主役になると思います。しかし、既存の原子力に対しては国民の不安があまりに大きいので、将来的には、安全性が高く、既存原子力と同じく、化石燃料を使用せず、国際情勢にも影響されない、自前の技術と燃料(水素の同位体である重水素と三重水素)で発電できる核融合発電に置き換えていくべきだと考えています。」
1.核融合発電とは
既存原子力発電は、ウラン(質量数235、238)など比較的重い原子を核分裂させてエネルギーに変換します(ウラン235は核分裂しやすい)。一方、核融合は、水素(質量数1)やヘリウム(質量数4)など軽い原子を核融合させてエネルギーを創出します。
太陽は、体積では地球の130万倍もある巨大な恒星です。46億年前に誕生した時はほとんど水素で構成されていました。しかし、巨大な質量(地球の33万倍)がもたらす重力(中心部は2400億気圧)により水素原子4個が融合してヘリウム原子1個へと変換(核融合)し続けています。この変換の際、1グラムの水素で1000トンの常温の水が一挙に沸騰するほどの巨大なエネルギーを生み出しています。不謹慎な例えで恐縮ながら、私の愛読者である「太陽系の地図帳」の例示では、広島に投下された原爆の5兆個分の莫大なエネルギーを毎秒生み出しているとのことです。
この太陽で起こっている核融合反応を地球でも起こしてエネルギー創出しようというのが核融合発電であり、「地球に太陽をつくる」と言われる所以です。
但し、地球では2400億気圧もの巨大な重力をつくりだすことは不可能です。それゆえ、燃料となる重水素(水素の同位元素で、水素の原子核に中性子1個がくっついたもの)と三重水素(同じく水素の原子核に中性子が2個くっついたもの)を巨大頑丈容器の中で摂氏1億度もの高温に加熱してプラズマ状態(気体が電離イオン化している状態。個体、液体、気体につぐ第4の状態といわれる)をつくりだし、この状態の中で水素原子4個をヘリウム原子1個へと変換させる(核融合)ことによって、太陽とおなじように莫大なエネルギーを生み出そうとする仕組み・技術です。このエネルギーを使って発電するのが核融合発電です。
核融合発電は、既存の核分裂原子力発電と同じように、化石燃料を必要とせずCO2も排出しない自前のエネルギー源となります。また、国際情勢、地政学的リスクにさらされることがありません。燃料は海中など自然界に無尽蔵に存在します。その燃料注入をやめれば核融合反応は止まります。また、1億度という高温をやめればやはり反応が止まります。そして、高レベル放射性廃棄物を出さないことから、安全性が高いといわれるのです。
2.移行期に必要な電源
今、我が国が目指す電力供給の理想の条件は、
1)安全性が高い電源
2)CO2を排出しない電源
3)資源購入代金を海外へと持ち出さずに国内還流させることができる電源
4)天候などに関係なく常に安定的に電力供給ができる電源
5)どんな国際情勢になろうとも自前自力で発電できる電源
6)経済性の高い電源
だと思いますが、6)の経済性については議論が分かれるところなので、以下の議論では経済性の要素を除きます。
再生可能エネルギーは、上記1)、2)、3)、5)は充たしますが、4)は大きな問題です。火力発電は1)、4)は充たしますが、2)、3)、5)は悩ましい問題です。原子力発電は2)、3)、4)、5)を充たしますが、国民の安全性への心配が残ります。
これまで持論展開してきたように、我が国の国情(化石燃料を産せず、海に囲まれ、、電力系統も他国と繋がっていない、太陽光、風力などの再生可能エネルギーは天気次第)を考えると、電力システム改革が目指す競争原理よりも電力の絶対量の安定的確保と供給が優先します。
つまり、理想の新しい電力システムに移行するまでの移行記には上記中4)がどうしても必要なのです。それゆえ、この移行期には再生可能エネルギーに加え、火力、原子力を有効活用するベストミックスの組み合わせで繋いでいくしかありません。
3.核融合発電への期待
しかし、唯一核融合発電だけは、1)、2)、3)、4)、5)を全て充たす電源であり将来的に大きな期待が持てます。しかし、現時点では、本当に技術的に確立、実用化できるのか、できるとすればいつになるのか、そして(一度は議論から外した)経済性はどうなのか、という問題が残ります。
しかし、EU、米国、日本、韓国、ロシア、中国、インドという7極が参加する核融合の実験炉となるITERプロジェクトがフランス南部でコロナの影響等で多少の遅れはあるものの順調に進められています。私はITERプロジェクト向けに三菱重工業が製作した設備輸出のセレモニー(神戸にて)にも参加し、ITERの進捗状況の報告会にも必ず参加しています。また、茨城県日立那珂市にある小型の核融合実験炉にも視察に行きました。我が国の弱点を克服することができる核融合発電に大いに期待するからです。
ウクライナ戦争や昨今の資源価格の高騰、エネルギー資源の地政学的リスクの高まりを受けて、米国、英国などは核融合技術の実用化に向けた計画を10年前倒しすることになっています。我が国も岸田総理の施政方針演説の中にはじめて核融合発電の推進が盛り込まれました。
核融合発電の実用化までの移行期は再生可能エネルギー、火力発電、原子力発電各々の長所、短所を活かし補いながら活用して電力安定供給体制を確保し、将来的理想の電力システムの構築とその主軸となってくれるであろう核融合発電の実用化に向けた、国を挙げての投資の必要性をこれからも訴え続けていきます。
吉良州司