吉良からのメッセージ

2023年11月10日

ウクライナ戦争の停戦に向けて 「ロシアークリミア回廊を占拠された苦い教訓」「ハマス・イスラエル戦争に対する見解」

前回のメッセージにおいて、ウクライナ戦争停戦の必要性につき、序章的な説明をさせてもらいました。

読者の誰もが「吉良さん、停戦が必要なんて表面的なことは、誰にもわかっているよ。しかし、実際の停戦条件を詰めていくとなると、双方の主張が平行線をたどり、とてもじゃないけど停戦なんてできるわけがないよ。何よりも極悪非道のプーチン相手に何かを譲る妥協なんてできないよ。不正義がまかり通る世界にしてはならないからね」との感想をお持ちだと思います。
その通りです。しかし、ウクライナが一番頼りにしている米国ですら、ウクライナ支援継続の是非につき国論が二分しつつあり、NATO諸国の「支援疲れ」とその結果である「支援の見直し」も一部の国で現実化しつつあります。更には、ハマス・イスラエル戦争も勃発し、世界の関心が中東に移りつつあり、ゼレンスキー大統領も危機感を募らせている中、ウクライナ側の妥協を含む双方の譲歩が停戦の鍵となります。

1.ロシアークリミア回廊を占拠、実効支配、併合された苦い教訓

私がロシアによる軍事侵攻からちょうど1か月後の2022年3月25日の弊メッセージ「ウクライナ問題を考える その9 今一度停戦合意の必要性」で力説しているように、停戦が遅れれば遅れるほど、より難解な問題が生じ、犠牲が増える一方、停戦、平和への道のりは更に遠のいてしまいます。

同メッセージで私は次のように訴えています。

『ウクライナ・シリーズその4とその8において、私が考える停戦合意の具体的内容について既にお伝えしていますが、それ以降の新たな変化があります。それは、ロシア侵攻が計画通り進まず、キエフの制圧が厳しくなりつつある中、ロシアの主眼は、マリウポリはじめ黒海沿岸域における「ロシアークリミア回廊」の制圧と実効支配に移ってきていると思われることです。<中略>マリウポリは黒海内の内海であるアゾフ海の重要港湾都市、黒海北西岸のオデッサはソ連時代からの最も重要な国際港湾都市であり、ロシア帝国以来の南下政策、不凍港獲得政策として、これらの国際商業港をわがものにしたい(クリミアのセヴァストポリ軍港は既にロシアの実効支配化にある)と目論んでいると思われます。それゆえ、ロシアークリミア回廊が実効支配される前の停戦合意が必要です。しかし、同時に、ロシアとウクライナ両国で世界の小麦輸出の3割を占め、その輸出はオデッサ港発が中心であることを考えると、黒海沿岸の国際港湾の管理・利用に関する新たな合意形成も必要だと思っています』
*私が命名した「ロシアークリミア回廊」とは、残念なことに現在ロシアに占領され、併合されてしまったウクライナ南東部のヘルソン州、ザポリージャ州、ドネツク州、ルハンシク州という4州のことで、ロシアとクリミアが陸路で繋がる「回廊」のことです。

ロシア侵攻直後に一度は開始された停戦交渉でしたが、直後にキエフ近郊都市ブチャでの市民虐殺が明らかになった為に打ち切られ、その後、現実的に南東部4州はロシアに占領、実効支配、併合されてしまいました。ブチャでの虐殺行為は決して許されないことですが、停戦が遠のいたために、その後も犠牲者は増え続け、街は破壊され、大事な自国領土を占領、併合されてしまった結果、今後の停戦のハードルは、実現不可能なほどに高くなってしまっています。

ウクライナへの支援疲れが出ている今、また、ハマス・イスラエル戦争が勃発した今、一刻も早く停戦しないと、対ウクライナ支援が細ってしまってからでは、ロシアから足元を見られてしまい、本来ならウクライナが取れる条件も取れなくなってしまいます。ロシアークリミア回廊の二の前になる前の停戦を主張する所以です。

そこで、次回のメッセージからは、「民族とは何ぞや」、「ウクライナ戦争を含む、現在の旧ソ連内の紛争は、『ソ連崩壊時の大混乱』の修復過程である」といった停戦条件の前提となる命題について私の考えをお伝えしたいと思います。

2.ハマス・イスラエル戦争に対する見解について

尚、今の今、多くの読者は「(吉良さんのウクライナ論は何度も読んでいるので)、今知りたいのはハマス・イスラエル戦争に対する吉良さんの見解」だと感じていると思っています。私も今考えをまとめているところですが、見解披露に躊躇があるのは、私は商社勤務時代も含め、イスラエルもパレスチナも一度も訪れたことがないからなのです。
民主党政権時の外務大臣政務官時代、パレスチナ、イスラエル、エジプト、アルジェリアを訪問することが決まっていたのですが、首相交代により実現できませんでした。

私は、商社勤務時代、駐在地こそ米国ニューヨークでしたが、出張先の多くは中南米や東南アジア、南アジアなど途上国でした。また、ブラジル留学中の26歳の頃、バスに合計280時間乗り、地球の半周分に相当する2万Kmの南米冒険旅行をしました。この途上国出張と南米冒険旅行の経験から、人間の考えや生き方、そして人間が構成する社会のあり方は、地形、気候によって決まるということを確信するようになりました。
「百害あって一利なし」の価値観外交な政策を批判し続けているのは、先進国のほとんどが温帯気候や寒冷気候に集中しており、この気候条件の中で培われる歴史的教訓や思想や考え方は熱帯雨林気候や砂漠気候やステップ気候の国や人々には全く通用せず、反発されるだけだとの確信を持っているからです。

現地の土、山、川、空気、空、家々、服装、街並み、何よりもそこに住んでいる人たちの目や表情を見ることで、その土地に住む人々の暮らしや考え方が肌感覚で理解できると信じているし、実感してきました。

それゆえ、私のモットーは、「自分の目で見て、自分の心で感じて、自分の頭で考える。そして、自分の言葉で表現する」というものです。

イスラエル・パレスチナ問題についての知識は充分備えているつもりですが、歴史的、民族的、宗教的、政治的にあまりに複雑なので、私が披露する見解が、単なる「学んだ知識の披露」や「評論家的見解」、更には、一度も訪れたことがないことによる「現実感の乏しい見解」に陥ることがないように、今、自分なりに思索を深めているところです。

それでも今、次のことは言えると信じます。

『ハマスの10月7日のイスラエルへの大規模攻撃と無差別殺戮は決して許されない。しかし、イスラエルの報復攻撃も、何の罪のない民間人、特に子どもたちのこれほどまでの犠牲を出し続けていることも断じて許せない。ハマスもイスラエル軍もどちらも「やり過ぎだ」。ここは双方とも言い分があるだろうが、まずは休戦、更には停戦して、これ以上罪のない人々を犠牲にしてはならない』と。

次回は「ウクライナ戦争の停戦に向けて 民族とは何ぞや」についてお伝えします。

吉良州司