吉良からのメッセージ

2023年2月25日

ロシアによるウクライナ侵攻から1年に思う

ちょうど1年前の今日2022年2月24日(執筆時)、ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。今現在全く出口の見えない、泥沼化する戦争を深く憂慮しています。

1.軍事侵攻前から戦争回避のための具体的提案をしていた

私は、ロシアによる軍事侵攻前から、その暴挙を何とか回避できないかとの問題意識を持ちながら、2022年2月3日の予算委員会(NHK放映はない)や2月16日の予算員会分科会において、林外務大臣に我が国として戦争回避のために重要な役割を果たすべきと訴えました。また、発信はちょうど軍事侵攻開始当日になりましたが、これらの委員会質問の報告を兼ねてメルマガを発信していました。

 合計12回に亘る「ウクライナ問題を考える」シリーズ
 その1 予算委員会・分科会にて質問に立つ
 その2 強権国家の主張には正当性はないのか
 その3 経済制裁で苦しむのは誰か
 その4 停戦合意の条件
 その5 ウクライナ訪問で感じたこと
 その6 米国とNATOの他人事対応
 その7 エネルギー安全保障とお家事情
 その8 核抑止力の非対称性
 その9 今一度停戦合意の必要性
 その10 小麦価格の高騰は世界の貧困層を苦難に陥れる
 その11 ウクライナ戦争後の世界 ~新次元の東西冷戦を回避する知恵
 ウクライナ問題を一度立ち止まって考える

その意図はとにかく戦争を回避すること。そのためにウクライナには、ロシアがもっとも強い拒否反応を示しているウクライナのNATO入りを止めて中立国となることがもっとも望ましいこと、また、外交はもちろん交渉ごとは100対ゼロの決着はありえず、たとえ相手が強権国家であったとしてもその言い分には一理あるので、戦争回避のため、相手の言い分も尊重して妥協を図るべきだとの持論を展開しました。

2.平和を壊してまでNATOの東方拡大が必要なのか

持論展開の中心テーマは下記のような問題意識や主張です。

(1)クリミア問題やドンバス地域の親ロシア派勢力の存在は歴史的にかなり複雑ゆえ(国際法上はウクライナ主権地域だが、歴史的にはロシアが自分の領土であると主張してもおかしくない地域であり、同じソビエト連邦というひとつの連邦国家内共和国であったが故に、当時のソ連内ウクライナ共和国の領域として認めていただけであり、将来独立国になるならばロシア領を主張していたはず)、戦争回避のための妥協点を見出す場合はこれらの地域の位置付けが焦点になる。
(2)NATOは元々ソ連やワルシャワ条約機構の軍事的脅威から欧州を守るための同盟であったのに、ロシアとの武力紛争を引き起こす可能性があってもNATOの東方拡大を推進すべきなのか疑問。
(3)ロシアからすれば、かつて同じソ連の仲間だった国、それも民族的文化的にも極めて近い兄弟国ウクライナが、ロシアを仮想敵国とするNATOに加盟し、ミサイルをモスクワやサンクトペテルブルグに向けることは絶対に許せない、と考えることはロシアの立場からはごく自然ではないか。有名な米国ケネディ大統領時代の1962年、ソ連とキューバが軍事協定を結び、キューバに核ミサイル基地の建設をしようとした際、米国は自分の喉元に切っ先を突き付けられてはたまらないとして、キューバを海上封鎖し、核ミサイル基地の撤去を迫った歴史的事実がある。米国がロシア、ウクライナがキューバと考えれば、ロシアの主張にも一理ある。
(4)ウクライナ情勢の緊迫化によって世界の天然ガス市場や穀物市場の需給逼迫が予想され、貧しい人々は飢えに苦しむことになるが、それでもNATOの東方拡大は、ウクライナの主権の尊重という名のもと、必要だというのか。

上記の問題意識や主張は「ロシアの肩を持っている」として強い批判を受けましたが、決して軍事侵攻というプーチンの絶対悪を容認しているわけではありません。
しかし、国民の自由な発言や行動を抑圧し、何をしでかすかわからない元KGBの大統領プーチンを擁する強権国家、核を保有し、その使用をちらつかせて脅す軍事大国ロシアが相手です。そんな強権軍事大国に他国侵略の口実を与えず、なだめすかせることは必要悪であり、生き抜いていくための知恵ではないかと思うのです。
図体のでかい、めっぽう喧嘩が強く、喧嘩が好きないじめっ子がいた場合、そのいじめっ子から反感を買うようなことがないよう絶えず気を使い続けます。そんな卑屈な行動がいいとは本人も決して思ってはいませんが、下手に正義感を出して反発を買うとボコボコにやられるので、我慢しながらうまくやっていくのです。気の荒いヤクザの親分に対しても似たような行動を取るでしょう。生き抜くための知恵です。

3.無責任な国際世論、無責任な西側リーダー達

私はウクライナのNATO加盟を思いとどまるよう日本政府からも強く促すよう訴え続けましたが、政府は米国やG7と共同歩調を取ること以外の選択肢はないとばかりに突っ走ってきています。

日本の世論も世界の世論もまた日本のリーダーを含む西側のリーダー達も結果責任的には無責任だと思えてなりません。誰も戦争終結に向けた具体的な行動はおろか提案でさえ行っていないからです。バイデン米国大統領は「ロシアに勝利させない」「ウクライナを支援し続ける」と威勢のいいこと言いながら、ひたすらロシアとの直接対決を避け続け、自分がキエフ訪問する際にはちゃっかりとロシアに「自分がキエフ滞在中はキエフ攻撃をするなよ(吉良州司の意訳)」と事前通告しています。そんなパイプ、話ができるルートがあるなら、一刻も早く戦争終結に向けた協議をしろよ、と言いたくなります。
「ウクライナがどうするか、それはウクライナが決めること」「米国から(停戦合意に向けた)協議を開始すべきだとは言えない、言わない」という論理は一見正論に聞こえますが、米国や西側諸国が軍事支援をやめれば即ゲームセットになる戦争です。
実体は米国が「停戦協議をはじめろ。そうしないと軍事援助を打ち切る」と言えば、停戦協議をはじめざるをえないのです。

4.世界の貧困国、貧困層の悲劇

私は「ウクライナ問題シリーズその1」において、次のように問題意識を提起期しています。
『今、足下でロシアがやっていること、やろうとしていることは、「正義」に照らせば、決して許されることではありません。それは誰の目にも明らかです。しかし、米国、NATO加盟国、旧西側諸外国が正義をかざして、何らの妥協点も見出そうとせずに武力紛争に至った際、犠牲になるのは何の罪もないウクライナの人々です。米国も一切の妥協を拒否しながら、一方では、早々と米国ウクライナ大使館の米国人を退去させています』

ウクライナ戦争により何の罪もないウクライナの人々が犠牲となり平和だった日常生活が破壊されていることは本来あってはならないことと世界中で意識されています。一方、世論が忘れているのは、ウクライナ戦争の影で世界中の貧しい人々が食料高に喘ぎ、ソマリアやイエメンなどの国々では子どもが栄養失調に陥り餓死者も出ていることです。先進国はウクライナ支援という正義を掲げながら軍事援助を続けると同時に、豊かさゆえにエネルギーや食糧が高騰しても買い続けることができます。しかし、貧しい国、貧しい人々は物価高に疲弊し、飢えているのです。

ウクライナ戦争がはじまって以来の先進国は、事が欧州大陸で起こっていることなので、自分のことで精一杯となり欧州以外の地域の貧困国や貧困層に対する配慮が疎かになってしまっているのではないかと感じます。

5.一刻も早い停戦、終戦を願う

既にかなり長くなっていますので、そろそろ文章を閉じたいと思います。
ゼレンスキー大統領が「クリミアも取り返す」と言っていますが、事実上、ロシア領化しているクリミアまで取り戻すとなると10年を超える年月の戦争を覚悟しなければなりません。第二次世界大戦でベルリンに攻め込んで降伏させたように、ロシア本土に攻め込んでモスクワを制圧し、ロシアに白旗をあげさせるなら話は別ですが、「ロシア軍がウクライナから全面撤退」すれば戦争終結とは言うものの、ロシア軍をどこまで追い出せばいいのかという問題は非常に難しいものがあります。
元々親ロシア派が占領していたドンバス地方のドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国を除くドネツク州、ルハンシク州、ヘルソン州、ザポリージャ州は取り返せるかもしれません。しかし、両人民共和国、とりわけクリミアまで取り戻すのは至難の業です。核の脅威に怯えながらの奪回作戦となる可能性が高く、ロシア本土に攻め込んだ場合と同じ抵抗を覚悟しなければなりません。10年を超えるかもしれないその間も貧困国は勿論、日本を含め世界中の人々が物価高に苦しむことになるのです。
何よりも、なんの罪もないウクライナ人やロシア人(多くの人の感覚がマヒしていますが、ウクライナ戦線の最前線に送られているロシア人も職業軍人を除けばなんの罪もないごく普通の一般市民)の命をこれ以上犠牲にしてはならないと強く思います。
一刻も早い停戦、終戦を願いペンを置きます。否、今はパソコンのキーボード叩きをやめます、と言うべきですかね(笑)。長い文章を最後まで読んで戴きありがとうございました。

吉良州司